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よるにゆるりと

黒とか白とかグレーとか

『魔法があるなら』

 

魔法があるなら

魔法があるなら

 

 

 

魔法なんてひとつも使ってないのにこんなに夢のあるおはなしには出会ったことがないかもしれない。

 

わたしは基本的にファンタジーがすきだ。
少し古い町並みに怪しげなお婆さんに心踊るような魔法の数々。
いま、わたしが暮らしている現代日本では到底起きそうもないような。

 

ただし、今回おはなししたい「魔法があるなら」はタイトルこそ使っているものの舞台は現代だ。
魔法は登場しない。
なのにずっとずっときらきらしている夢のようなおはなし。

 

 

 

 

小さいころ大きなデパートに行って、一面に広がるベッドの数々や、無限にある(ように見える)おもちゃのやまにわくわくしたことはないだろうか。

 

おっきくてふかふかのベッドにダイブしたり、おうちにはとても置けない規模のミニチュアのお人形ハウスを眺めたり、本屋さんの子供コーナーでひたすらに豪華な飛び出す絵本を眺めたり、壁全部を埋め尽くすいろんな大きさのテレビでだいすきな番組がひとりじめできたら。

 

すきなだけ、誰のことも気にせず出来たならきっと、いやぜったい幸せだ。

そんなことが、ぜんぶ自由にやりたい放題出来ちゃうんです。
そう、デパートに住んじゃえば!

 

 

ふわりと楽観的なママと元気いっぱいまっすぐな妹にはさまれて、心配性なお姉ちゃん、リビーが主人公。
どんなにママが働いても子供ふたりを養えるほどには稼げなくてクリスマスプレゼントがスコットレーズ(デパート)のウインドウを眺めるだけ、という慎ましすぎる生活を送っている。
なおかつ、ある一定の期間が過ぎると、ママの心のなかのジプシーが騒ぎ出して月夜の大飛行が始まってしまうのだ。

そんな何度目かの大飛行先は豪華で立派で最高に素敵なスコットレーズ………!

 

 

 

 


…ああ、これ夜逃げしてたんだ。
初めて読んだ小さい頃には気付けなかった。

同じ場所には住めない、のは、もちろんママの気持ちの部分もあったかもしれないけど、やっぱり大半は家賃が払えなくなってしまったから。…なんだろう。

 

明るくて能天気に見えるママが最後のほうで「臆病だったの。ほんとのことを言うより、ごまかしてるほうが、楽だったの」と、本音をこぼすシーン。

やっぱり母親は強い、と唸らずにはいられない。臆病だからなんかじゃない。本当の気持ちを話さなかったのは明るい楽しいおうちでいたかったからだ。真っ当に受け止めるには現実はちょっぴり厳しすぎた。ただそれを子どもたちに伝えたところで不幸しか生まれない。それをきちんとわかって、そのうえでの明るさだったのか、と、ここでママのことがだいすきになってしまう。

 

正直序盤はお姉ちゃんのリビーのありとあらゆる不安が伝わって伝わって、ママもかわいい天使のような妹のアンジェリーンも、リビーの気苦労を増やすことしかしない感覚になってしまうのだ。
でもどんなに不安な気持ちでいっぱいになってもスコットレーズの魅力には勝てないのだ。

 

ありとあらゆる売り場を少しお借りして生活を豊かに楽しく過ごす様子にはわたしもいきたい!と思わざるを得ない。
この売り場を通り過ぎたらあの売り場があって……たくさん場所の名前が出てくるようなはなしなんて普通に読んだら場所の想像がつかなくて訳が分からなくなってしまうのに、このおはなしはむしろどんどん楽しくなってしまう。


そして楽しいのは表だけではなく、裏側。従業員エリア。あんなにきらきらしたデパートの裏側ってどうなってるんだろう…!従業員の方の出入り口が開いていたらこっそりチラ見してしまうのは絶対わたしだけじゃないはず。…………思っていたよりキラキラしてない。硬い床にただの洗剤の香り。表も裏もキラキラしているなんてありえない。そんなものだ。しかし夢の世界ではなくそこは現実世界なので、住んでいるものにはとってもありがたい場所。その夢と現実世界の間も上手に使ってしまう三人の強さがまたきもちいいのだ。

 

そして現実味のないふわふわした綱渡りのような生活を描いているところから、スリルいっぱい勢いいっぱいの終盤にかけてのスピード感がもうたまらない。

 

夢のなかにいたはずなのに、気が付いたらページをめくるのドキドキしてるぞ、わたし…!

 

そのドキドキはぜひ読んでみて体験してほしい。

 

 

 

初めて読んだ中学生くらいのときから今まで何度となく見かけるたびに手にとってしまうのに、いつもふあふあしてドキドキしてしまう。
さすがアレックス・シアラー……。

 

子供のときにデパートに行くのがだいすきだったひとも、行ってみたいって想像いっぱいしてたひともどんなひとにも読んでほしい一冊。