ことばの通じない場所をひとりで旅するということ
「英語話せたっけ?」
わたしがヨーロッパに行く話をすると絶対にされる質問。
それくらい、他言語を話すって日本人にとって馴染み薄いもの、関係のないものという認識なんだよなあと今はすごく思う。
あくまでも学校で習う科目のひとつに過ぎなくて、受験が終わったらもうたずさわらなくなる人だってたくさんいる。
たまに道で外国の方に話しかけられたりするだけで、ちょっとした話のネタになるくらい特別なもの。
話せたら便利だよね、必要だよねって思っても、わたしにとって英語と関わることって日々暮らしてゆくなかにおいては全然想像ができないものだった。
だから毎回聞かれる質問の答えは「ほとんど話せない。」
出発するときにわたしが持ってた語学力なんて、本当に本当に最低レベルのフランス語と、あとは義務教育で学んだ遠い遠い記憶の彼方にある英語。
わざわざ海外に、それもひとりで、5週間も行くんだからってちっとも信じてくれなかったけれど、でも本当に話せるレベルじゃなかった。
だけど旅をするって決めたときは、英語が完璧に話せるようになるまで行かないなんてことはちらりとも考えなかった。
それよりもとにかく見たいものがあって、感じたいことがあって、「今だ!」って思うタイミングがあったから飛び込んでみただけだった。
話せなくても何とかなるだろう、いまはスマホもあるんだし、とかなり気楽な気持ちでいたことを覚えてる。
実際に、ただ「旅をする」という面において語学力はそこまで問題じゃなかった。
その国の「こんにちは」「ありがとう」「おいしい」だけ移動中に覚えて、あとは「Can I~」と「I want to~」、「Please tell me~」を駆使して単語を連発する。
これで旅のあいだに困ったことは、ほとんどなんとかなった。
だけど、それではあまりにもつまらなかった。
泊まったホテルは殆どユースホテルだったから、同室にはいつもいろんな国から来た旅人がいて、リビングやキッチンではあちこちで交流会が行われていた。
そこでの言語は専ら「英語」。
わたしも何度も話しかけてもらったけど、質問に短文で答えるのがやっとでこちらから何かを聞くことなんてとてもじゃないけど出来なかったし、答えてもらっても半分くらいしか理解できない。
すごいなあってただぼんやり見ていることしか出来なくてもどかしかったし、曖昧に笑うことしか出来ない自分がはずかしかった。
その恥ずかしさは、段々街中でも感じるようになっていった。
ホテルにいた彼らは旅をするくらいだから、みんな第一言語じゃなくても英語が話せて当たり前だったのかもしれない。
だけどお店の人や、道がわからなくて尋ねた街の人、基本的にほぼみんなが英語で答えてくれる。
こんなに拙くて理解もできてない外国人は、多分、日本人のわたしだけだった。
すごくすごく恥ずかしかった。
そんな気持ちがどんどん膨れてしまって、そうしたらわからないことがあっても誰かに聞くのが嫌になってきてしまって。
どんどん気持ちも下向きになってきて、歩くのも楽しくなくなってきてしまった。
だけどバルセロナに着いてふらふらしてたら、あんまりにも風が気持ちよくて爽やかで、街中がとにかくエネルギッシュであちこちきょろきょろせずにはいられなかった。下を向いているのがもったいないくらいパワーのある街だった。
高速鉄道のチケットも取らないといけないから、無理にでも話さないといけなかったこともあって、こわい気持ちよりもこの街に対する好奇心のほうが勝った。
じめじめした気持ちとはそこでさよならできた。
今はちゃんと文章になんてできない。
今更それはどうしようもない。
だけどわたしはいまあなたに伝えたいことがあるんだ!って単語を並べて、身振り手振りジェスチャーして。
たくさんの人と話してみたかったんだなってそのときやっと気付いた気がする。
うまく話そうって思うから言葉が出ないけど、それでもいいからたくさんの人のことをわたし知りたかったみたい。
吹っ切れてしまったあとは気持ちが楽になれて、最後のパリで6泊したときは同室の子と一緒にエッフェル塔を見に行くことが出来たりしてすごく楽しかった。
拙くてもとにかく頭のなかにある単語を引っ張り出して、やりとりして、伝わって、会話ができて。
そういうことがこんなに嬉しいんだって、学校の授業でもっと知っておけたら良かったな、なんて。
最後は開き直れたおかげで前向きに帰ってこれたけど、でもやっぱりつくづく「英語が話せない」ってもはや致命的だなと思ってる。
日本にいるとそんなこと全く気にならないし、わたしだって戻ってからは実際に一度も英語を話していない。
だけど、行こうと思えば往復で10万円あれば現地に行ける。
話したり、メールでやりとりするだけならいつでもできる。
文化も、常識も何もかも違う人たちと接するってとてつもなく楽しくて刺激的って知ってしまった。
もっともっとたくさんの人とお話しできるようになったら嬉しいから、旅で感じた「楽しい」だけじゃなくて「恥ずかしい」「悔しい」って気持ちもちゃんと忘れないでいようと思う。